1.むち打ち症とは?
交通事故でしばしば問題となる怪我として、いわゆる「むち打ち症」があります。
むち打ち症とは、追突事故等によって急激に身体に衝撃が加わったことにより、頚椎部がむちのようにしなって過度に伸縮し、頚部の靱帯や椎間板、神経等の組織が損傷して生じる症状の総称です。
むち打ち症は、頚椎捻挫、頚部捻挫、外傷性頚部症候群といった診断名がつけられることが多く、典型的な症状としては、頚部痛、頭痛、めまい、上肢や手指のしびれ等が挙げられます。
2.むち打ち症を負ったらどうすれば良い?
むち打ち症の典型的な症状は、頚部痛や頭痛等ですが、これらの症状は、事故直後から発症することもあれば、当日は大したことが無いと感じていても、翌日や2~3日後になってから発症・増悪するということもあります。
そのため、事故に遭った場合、「大したことないから大丈夫」、「これくらい病院へ行く必要ない」などと考えず、まず整形外科を受診することが大切です。
また、交通事故に遭った場合、頚部のレントゲンを撮ることがよくあります。確かに、骨折や脱臼といった怪我を負っていないかを確認する上で、レントゲン撮影は非常に重要です。
しかし、靱帯の損傷や神経根・脊髄への圧迫といった異常を調べるためには、レントゲンではなくMRI検査を受ける必要があります。むち打ち症では、神経根や脊髄への圧迫によって上肢や手指のしびれ等の症状が出ることがあり、後々、後遺障害等級の評価を受ける上で、こうした症状が画像所見によって裏付けられているか否かがポイントになります。そのため、レントゲンだけではなく、MRI検査を受けておくことが重要です。
3.むち打ち症は3か月で治る?
むち打ち症については、統計上、軽傷例であれば大部分は1か月以内に、重症例であっても大部分は3か月以内に症状が軽快するとされています。
裁判例の中にも、「衝撃の程度が軽度で損傷が頚部軟部組織(筋肉、靱帯、自律神経など)にとどまっている場合には、入院安静を要するとしても長期間にわたる必要はなく、その後は多少の自覚症状があっても日常生活に復帰させたうえ適切な治療を施せば、ほとんど1か月以内、長くとも2、3か月以内に通常の生活に戻ることができるのが一般である」と指摘するものがあります(東京高等裁判所昭和58年9月29日判決)。
そのため、保険会社も、むち打ち症の事例については、3か月程度で治療費の支払いを打ち切るということがよくあります。
もっとも、むち打ち症の原因や機序については、十分に解明されていない点も多く、事故態様や被害者の年齢、既往症の有無、受傷時の体勢等の様々な要因に左右されるため、どの程度の治療が必要かは個別に判断される必要があります。
したがって、むち打ち症であるからといって、一律に3か月の治療で十分ということではなく、治療内容や治療効果、症状の推移等を勘案して治療終了時期を見極める必要があります。この判断を行うに当たっては、主治医の医学的意見が非常に参考になりますので、受診の際、自身の症状をしっかりと主治医に伝えておくことが重要です。
4.むち打ち症は後遺障害に認定される?
むち打ち症による頚部痛等の症状が残存した場合、「局部に神経症状を残すもの」として14級又は「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級が認定されることがあります。
この両者の違いについては、
障害の存在を医学的に「説明」可能な場合は14級
障害の存在を他覚的に「証明」できる場合は12級
に該当すると考えられており、レントゲンやMRI検査による画像所見や、神経学的検査所見の有無、これらの所見と症状との整合性が重要なポイントになります。
例えば、MRI検査によって神経根の圧迫が確認でき、これに整合する神経学的異常所見が認められるような場合には、他覚的な証明がなされたとして12級の認定を受けやすいといえます。
他方、画像上は明らかな神経根の圧迫が確認できなかったとしても、圧迫を示唆する所見があり、神経学的検査において異常所見が認められているような場合、他覚的な証明がなされているとまでいえなくとも、医学的な説明が可能なものとして14級の認定を受けることができる可能性があります。
適切な後遺障害等級の評価を受けるためには、症状を正確に主治医に伝えると共に、MRI検査や神経学的検査を受けてその結果を診断書やカルテに残してもらうことが重要です。