【治療費等の支払(総論)】
被害者が事故により受けた傷害の具体的な内容・程度に照らし、必要かつ相当な治療費については、事故と相当因果関係のある損害として、その賠償が認められます。
【柔道整復(整骨院、接骨院)、鍼灸、マッサージ費等の施術費】
現在、事故により受けた傷害についての治療として、整骨院や接骨院等での施術を受けることも一般的になっています。しかし、これらの施術費用については、治療上の必要性が認められず、事故と相当因果関係のある損害として認められないことがあることに注意が必要です。
〇 認められる場合
整骨院や接骨院等での施術に関しては、医師が治療上必要であると認めて施術を受けるよう指示した場合には、施術の必要性・有効性が認められ、治療費として認められる傾向にあります。他方、医師の指示がない場合には、施術の必要性・有効性を積極的に証明する必要があり、この様な証明ができない又は不十分な場合には、治療費として認められないことがあります。
〇 裁判例
整骨院や接骨院等の施術に関する裁判例は、以下のように非常に様々です。
① 症状を緩和する効果があったと認められ、医師も施術を容認していたが、積極的な指示までは認めらない等として、全体の約2分の1の施術費を治療費として認めたもの(大阪地判平成18年12月20日)
② 医師の明確な指示を受けたことの証明はないが、ある程度痛みを緩和する効果があったと認められるとして、全体の約4分の1の施術費を治療費として認めたもの(大阪地判平成13年8月28日)
③ 医師の指示に基づいておらず、治療の効果も上がっていない等として治療費と認めなかったもの(東京地判昭和62年6月12日、大阪地判昭和61年10月14日等)
【温泉療養費】
日本では「湯治」という言葉があるほど、一般に温泉に入ることで心身を癒すという考え方が浸透しています。ただし、この温泉療養に関しては、治療費として認定されない可能性がある点に注意が必要です。
○ 認められる場合
温泉療養費についても、原則として医師の指示が必要であると考えられており、その場合でも、一部しか治療費として認められないことがあります。また、医師の指示がない場合であっても治療費として認められる場合もありますが、温泉治療による症状の軽減や機能の回復などの有効性を証明する必要があり、なかなか困難が伴うことも事実です。
○ 裁判例
裁判例でも、医師の指示がないものについては基本的に療養の必要があったものとは認められていません(東京地判昭和52年11月29日)。
柔道整復師等の施術に比べ、温泉療養に関しては、認められることが少ないというのが、現在の裁判例の流れとなっています。